句歌集 箕作りの歌
歌詠むを生活(くらし)の中の弾みとし 木屑に埋もれ今日も箕(み)を編む
一心に箕を編む真似す子の表情 ときには逝きし父にも似たり
激しさを増す雨の音いさぎよし 持論ゆずりて帰りし夜は
箕を売りて巡りし平野一望に 越えゆく峠朝より暑し
あえぎつゝ藤蔓採らむと登りゆく いまだに残る雪を食みつゝ
「オエダラ箕※」の製作・行商のかたわら文芸誌を主宰した秋田の歌人の遺稿集です。
名峰・大平山に抱かれた箕作りの村での暮らしを短歌・俳句・随筆で綴っています。
短歌と俳句は、昭和21年から令和5年までの615首、448句を収録しています。
早世した父のおもかげ。
箕作りと歌会の仲間たちとの友情。
妻と子どもたちとの囲炉裏辺の団欒。
わらび売り、根曲竹の採取、棚田の田植えなどの苦労と喜び。
山里の四季があざやかに目に浮かぶとともに、身近な人たちとの温かい心の通い合いに胸を打たれます。
随筆は、昭和53年から平成24年までの15編を収録しています。
行商でたびたび訪れた津軽を再訪し、津軽を旅した先人・太宰治に心を馳せる「小説『津軽』の足跡」。
盲目の三味線奏者の門付けに自身の行商の旅をなぞらえる「高橋竹山の歩いた道」。
足の描かれた幻のこけしを探索する「善二こけし」。
東北の箕の産地・世増と面岸の製作者を訪ねた貴重な記録「回想」。
菅江真澄も立ち寄った地元の稲荷神社の来歴を考察する「稲荷雑考」。
秋田、青森、岩手の伝承、芸能、文芸、工芸を共感をこめて語り、読者を机上旅行に誘います。
※オエダラ箕
著者が暮らした秋田市太平黒沢で作られる箕(穀物の殻や塵をふるい分ける農具)。当地が中世の領主大江氏にちなんで「大江平」と呼ばれたのが由来とされる。イタヤカエデを主な材料とし、「秋田のイタヤ箕製作技術」は、国指定重要無形民俗文化財。
●著者:加藤かつえい
昭和三年秋田市太平黒沢稲荷に生まれる。本名勝衛。昭和二十一年から「オエダラ箕」の製作と行商に従事。昭和三十七年から秋田銀行に勤務。昭和二十九年に文芸誌『いわな』を創刊、平成二十六年の終刊まで百五十号を編集・刊行する。同誌に俳句・短歌・随筆を発表するとともに、秋田魁新報の俳壇・歌壇に作品を発表(昭和二十九、三十年「さきがけ俳壇」推薦作家)。秋田市太平郷土史編集委員も務めた。
●著作一覧:
歌集 『箕作りの歌』一九八六年一月
句集 『炉火』一九八六年七月
随筆集『山里春秋記』*二〇〇三年五月 秋田ほんこの会
『雨滴春秋』二〇〇六年四月
『山麓有情』二〇一〇年十一月
『山里春秋記』二〇一三年三月
*以外は私家版
本書に掲載した随筆は『山麓有情』と『山里春秋記』
(二〇一三年版)から再録しました
●発行日:2025年6月16日
¥1,100
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